「二人の休日」
呉羽様より
マイアミのこの時期は、常に快晴だった。
どちらかというと、暑いのは苦手なので、あまり訪れたくはない土地だ。
だけど、それはこの際我慢することにする。
「なんだそれは。」
ありえない状況に、思わず口が開いた。
「悪いな。ちょっと急用が出来たらしく、頼んでいたシッターも都合悪くて来られなくてな。それで急遽預かることになったんだ。」
と言って、天下のコリン・ファレルが抱いているのは、ナイスバディの女性ではなく、父親に似ても似つかない愛くるしい瞳の赤ん坊だった。
確か、珍しくお互いのオフ日が重なったからということで、「一緒にバカンスを楽しまないか?」と誘われたのは1週間前の話だ。
暑いのは嫌だと、散々抗議したが、開放的なビーチで豊満な肉体がずらりと並んだ、素敵な景観を眺められるということで、話はまとまった。
・・・別に、豊満な肉体も、素敵な景観もどうでもいい。
お前と一緒に熱い日を過ごせれば、どこだっていいんだ。暑さなんかいくらでも我慢してやる。
だけど、これはナイだろう?!コリン!!
ジーザス・・・ジャレッドは真っ青な空を仰いだ。
「・・・怒ってるのか?・・・急とはいえ、せっかく休日だったしな。」
「・・・いいさ。別に。」
ジャレッドは諦め加減に項垂れた。
「まぁ、夜までの辛抱さ。夕方には迎えに来るといってたからな。」
「そうか・・・」
どこか腑に落ちない声を案じたのか、コリンは「すまんな。」ともう一度言った。
「・・・暑い・・・」
パラソルの下で、帽子にサングラス、上着をばっちり着込んだ上で体を小さくまとめている、見るからに海には似つかわしくない人物が、静かに呟いた。
「ジャレッド・・・それはあんまりだろう?!」
少し脂の乗ってきた体を惜しげもなく曝しているもう一人の人物が、連れ添った相手の姿を見て、ため息をつく。
「暑いのは苦手なんだ。」
「ベッドの上では、ここ以上に熱いくせに。」
叫ぶと余計な体力を使うので、キツイ視線を浴びせる。・・・としたところで、それが通じる相手ではないが。
自分の側では、あどけない幼子か無邪気にはしゃいでいる。
「随分、大人しくしてるじゃないか。そうか、お前もこいつが気に入ったんだな。」
「流石は俺の息子だ。」と満足げな表情で我が子を抱くコリンの姿を、ジャレッドはぼんやり眺めている。
「・・・それはどういう意味・・・」
「いやな。こいつ、気に入ったやつでないと一緒にいることが出来ないんだよ。気に入らないとどんなことしてもグズッて手がつけれなくなるんだ。だからお前のことはかなり気に入ってるみたいだな。」
「はぁ・・・」
子供に好かれても仕方ないのだが・・・。そう言い換けて胸の奥に飲み込んだ。
「なぁ、ジャレッド。俺たちは天下のスーパースターなんだぜ?もう少しこの状況を楽しまないか?」
「はぁ?」
「見ろよ。ピチピチした子猫ちゃんたちが、遠巻きに俺たちに熱い視線を送ってる。お前も感じてるだろう?」
ウィンクしながら、コリンは自分の斜め後ろを親指で示す。ジャレッドはその方に視線を向けると、すぐに溜息をついて視線を落とした。
「ジャレッド?!」
突然、立ち上がったジャレッドに焦った様子でコリンは名を呼んだ。
「どこ行くんだ?おい?!」
「・・・帰る。」
「は!?」
ジャレッドの言葉が信じられないと言った様子でコリンは叫ぶ。そんなコリンの様子を少しも気にかけることもなく、ジャレッドは踵を翻した。
「ジャ、ジャレッド!ちょ、ちょっと待てよ!本気じゃないだろう?!」
「・・・冗談じゃない。俺はここに女遊びに来たんじゃない。」
ジャレッドのブルーの瞳が真っ直ぐにコリンを捉える。目をきつく細めながら、きつい口調にジャレッドはコリンに言い聞かせた。
「・・・お前と一緒に過ごすために来たんだ。」
「ジャレ・・・」
ふて腐れている子供のようにジャレッドは俯いて、コリンがいくら呼ぼうと見ようとはしなかった。
自分でも、年下相手になんて子供じみた、馬鹿げたことをしているんだと非難する。
その時だった。
二人の様子を見ていたつぶらな瞳から、ぐずぐずした啜り上げる声と共に大粒の涙が零れ落ちた。
「ジェームズ?!」
コリンがあやしても泣き止まないジェームズ。すると、その小さな手はジャレッドの方に向かって大きく伸ばされていた。
「・・・ダァ・・・ダ・・・・」
その様子にジャレッドは困惑する。瞳を潤ませながら小さな手は尚もジャレッドを捕らえようと必死だった。そして、
「・・・ジャ・・・レ・・ェ・・・」
「「?!」」
二人は顔を見合わせた。ジャレッドが抱き上げるとジェームズは嘘のように泣き止む。
「もの凄く気に入られたみたいだな。」
コリンは褒めたつもりだったのかもしれないが、ジャレッドにとっては悪夢のような言葉だった。
(それも夜までだ・・・)
ジャレッドは諦めを覚悟した。
「ちょっと待て!約束が違うじゃないか!!」
受話器を相手にコリンが激怒を飛ばす。どうやら、悪運が立ち込めてきそうな予感だった。
「いや、それは気の毒だと想うが、だからって・・・何?!迎えに来いだと!?」
紛争はかれこれ10分以上に立つだろうか。
甘い夜を過ごすどころか、現状はジャレッドの膝の上には可愛い寝息を立てて安らかな表情を浮かべている幼子がいた。
ジャレッドもこうなって来ては半ば諦めもつき始めていた。
(しかし、あれだけコリンが怒鳴り声を上げても一向に目を覚まさないなんて・・・。やっぱりコリンの子供だな・・・)
「分かった・・・分かったよ!!じゃぁな!!」
長きに(?)渡る論争はようやく終結を迎えたようだ。・・・かと言って、ジャレッドはそれほど良い結果を期待していなかった。
案の定、気まずそうな顔を浮かべながらコリンがこちらへ向かってくる。
「あのな・・・ジャレッド・・・」
「いいよ、もう。」
「は?」
「迎えに来れなくなったんだろう?向こうも向こうで事情がありそうだし・・・もういい。」
「ジャレッド・・・」
「明日になれば来れるのか?」
「あ、いや。夜中にはこっちには来れそうだって。」
「そうか。」
そう言って、ジャレッドはジェームズを伴って、本来ならば、この子の父親と伴うはずだったキングサイズのベットに潜り込んだ。
「ジャレッド?!」
何してるんだ?!と、さも言いたげな表情でコリンが名前を呼ぶ。
「・・・お前、実の子で、しかもまだこんなに幼い子がいるっていうのに、俺を組み敷こうとしてるのか?」
「俺は明日の最終便に乗れば、大丈夫だから。それまで今日の分の挽回策を考えとくんだな。」
「おやすみ。」と言って、ジャレッドは眠りについた。
一人ポツンと残されたコリンは誰を恨めばいいのか、途方もない舌打をこぼした。
・・・ジャレ・・・
(・・・ん・・・?・・・)
・・・ジャレッド・・・
(・・・なんだよ、コリン・・・)
ジャレッドは意識の奥の方から聞こえてくる声に答える。
なぜか、身体が想うように動かせず苛立ちを覚えた。
(・・・コレは・・・夢か・・・?)
「ジャレッド。」
「!」
気がつくと、見知らぬ男が自分を組み敷いている。
「誰だ、おま・・・」
反論は空しくも、相手の唇によって塞がれてしまう。
(・・!・・・やばい・・・こいつ・・・キスが・・上手・・・い・・・)
ジャレッドは素直に反応する、己の下半身に感じる疼きを誤魔化すことができなかった。
「・・・っはぁ・・・」
ようやく唇が開放され、ジャレッドは深呼吸した。全身に倦怠感が渦巻き、身体の奥には確かな火照りを感じる。
「ああっ!」
離れた相手の唇はすぐにジャレッドの細い首筋に触れる。舌先で舐め上げられる感覚に抗えない想いを馳せた。
この男の指先はジャレッドの“良い”ところ知っているかのように、執拗に攻め立ててくる。
(な、なんだよ、こいつ・・・!)
込み上げてくるのは焦りとオルガニズムの相反するモノがジャレッドをさらに追い詰める。
「あっ!やだ・・・っ!!」
自分でも信じられないような声をあげ、ジャレッドの羞恥心を煽った。
「好きだよ、ジャレッド・・・」
「やだ・・・お前誰だ・・・よ・・・?!」
返答はなかった。
「いやだっ!コリン!!」
叫ぶと同時にジャレッドは目が覚めた。
「・・・・」
胸が荒く呼吸を上げている。ジャレッドは整えながら、辺りを見渡す。
ここは・・・泊まっているホテル・・・?
「・・・夢・・・?」
とは言っても、かなりリアルな感触。
心なしか、胸部・・・特にぷくっと尖った先端が、妙にヒリヒリとした感じがするのは気のせいだろうか・・・。
虚ろなジャレッドは、胸に妙な圧迫感を感じる。
視線を下に向けると、胸の辺りが異様に膨らんでいるではないか。
「あっ!」
怪訝に想うジャレッドは、すぐに言え知れぬ電流のような感触が身体を貫いた。
胸先に感じる刺激は、瞬く間にジャレッドの身体を疼かせる。
「・・・やっ・・・!」
思わず上擦る声に、ジャレッドの羞恥心が掻きたてられる。ジャレッドは力の入らない指先で、ようやくシーツを掴むと一気に剥ぐ。
「!?!!??」
ジャレッドの目に映ったのは、自分の胸の中で穏やかな表情を浮かべながら眠りについている知人の幼子の姿だった。
「・・ジェー・・・ムズ・・・?!」
またジャレッドの身体に刺激が走った。あろうことか、ジャレッドと一緒に寝たはずのジェームズは胸の中で眠っているだけではなく、その豊満な胸の先にあるモノを吸い上げている。
どうやら母親の乳房と勘違いしているらしく、なかなか離そうとはしない。
ふと、ジャレッドの脳裏に、以前、幼子の父親に『Bカップ』とからかわれた記憶が蘇った。
「だからって・・・」。ジャレッドは深い溜息をつくのも束の間、Jr.の攻めは執拗に襲ってくる。
「・・・ッ・・・」
ジャレッドはせめて声だけは漏らさないようにと、両手で口を塞いだ。こんな赤ん坊同然に、いくら敏感な部分とは言え、感じてしまうことほど屈辱的なことはない。しかし、その手はすぐに第三者の手によって開放された。
「お前の声は最高にセクシーなんだぜ?塞いでちゃぁ、勿体無いぜ。」
「コリン?!」
何時の間に姿を表した問題の子供の父親は、大層満足そうな表情をしてジャレッドを見下ろしている。
「・・・それはそうと、他の男に随分といい顔するじゃねぇか。・・・というよりも、流石は俺の子と言うべきか?その歳で、お前の一番いいところ知ってるんだからな。我が子ながら将来が末恐ろしいぜ。」
「ばっ!バカか、お前は!!この状況を見て言うのか、それを!」
「・・・粋がってる割には身体は素直なようだぜ?」
と言って、コリンは視線を胸よりもっと下の方に向ける。ジャレッドも同じように視線を向けると、乱れたシーツの波間に見えたのは、布に覆われた熱を帯びた欲情の化身だった。
(・・・・・)
ジャレッドは言葉を失った。深い溜息を二度零す。
いくら最近、禁欲生活だったとはいえ、夢だけでこんな過剰反応を見せるとは。
恥ずかしさに顔が赤く染まってゆくのが分かった。
「・・・ったく。そんな表情されちゃぁ、今すぐにお前の身体を貪りたいんだが・・・その前に。」
と言って、コリンはジャレッドの身体を執拗に弄っていた手を離し、我が子をその手で抱いた。
「ようやく迎えに来たんでな。」とジェームズをジャレッドの身体から離そうとするが、なかなか離れない。
「ジェームズ!」
コリンの大きな声に、びっくりした表情で目を覚まし、すぐに大粒の涙を零すハメになった。
「・・・こんな小さな子供にそんなに大声ださなくてもいいだろう?」
すっかり子供をあやす姿が様になりつつあるジャレッドがコリンを戒める。
「最初は嫌がってた割には、随分と懐いたもんだな。」
子供のようにふてるコリンの姿にジャレッドは思わず吹き出した。
天下のコリン・ファレルが、こんな姿を見せることもあるなんて、周りのファンやこいつに群がる女は想像もつかないんだろう。
そんな優越感がジャレッドには少しくすぐったかった。
「・・・マン・・マァ・・・」
「えっ?!」
二人は顔を見合わせた。「ぷっ!」とすぐに吹き出したのはコリンの方で、ジャレッドは胸の中にすっかり懐いてしまったジェームズを抱きながら複雑な思いにかられていた。
「・・・さて。」
二人分の重さに軋むベットの上で、コリンはすぐに臨戦態勢モードに入っていた。
「この歓迎にきちんと答えないとな。」
「えっ?!あ、ちょっと・・・何だって・・・?!・・・おい、コリン・・・ちょっと・・・待・・て・・・」
待てができるほど、コリンはジャレッドに躾けられてない。ここはむしろ『据え膳食わねば・・・』の精神なのだろう。
「コリン!!」
半ばパニック状態のジャレッドは、ようやくのところでコリンを静止する。
「・・・なんだよ」と、不機嫌そうな顔でコリンは舌打をした。
「ジェームズは帰った。そして、お前はこれから俺に抱かれる。」
単純明快な答えはすぐに理解が出来た。だが、納得までには到達しない。
「ちょっと待て!」
近づいてきたコリンの顔をぐいっと押し上げて、ジャレッドは諦め悪く抵抗する。
「今更、待ったはなしだぜ。俺は十分にお前に挑発されてんだ。」
「は、はぁ?!」
ジャレッドが眉を顰める。
「挑発・・・って、俺がいつそんなこと・・・」
「いつだってさ。」
コリンの眼差しが真っ直ぐにジャレッドを捉えた。
「いつだって、俺はお前に欲情する。今だって自分の姿をちゃんと理解してるのか?そんな身体して・・・いかにも襲ってくださいって言っているようなもんだぜ?」
「・・・そんなことは・・・」
「そんなことはないってか?・・・ってく、その自覚のなさに俺がどれだけ苦労させられてると想ってるんだ・・・」
見に覚えのない溜息に、ジャレッドはますます怪訝そうに眉を顰めた。
「・・・とにかく、今は素直に俺に抱かれてた方が利口じゃないか?・・・お前だってそんなに余裕がないだろう?」
「・・・・」
ジャレッドは反抗するのがバカらしくなってきていた。いや、いつだって逆らえないのだ。この男に。
「ジャレ・・・。ようやく二人きりになったんだ・・・」
急に甘えた声が耳に吹きかかると、ジャレッドの身体がピクンと小さく撥ねた。
(惚れた弱みってヤツなのか・・・?)
ジャレッドは心の奥で小さく溜息をついたが、口元は笑っているような気がした。
そして、決して降参した訳ではなく、ジャレッドはコリンに身を明け渡した。
「・・・・」
ジャレッドが二回目に目を覚ますと、窓の外は夜が明けようとしていた。
ジャレッドはガウンを羽織って、テラスに降り立つ。そこからまっすぐにビーチに降りれるようになっており、ジャレッドは裸足のまま降り立つと、月夜に曝された砂浜はひんやりと冷たかった。
昼間のビーチとはうって変わり、人気はなく、聞こえてくる音は波の音だけだった。
「・・・・」
ジャレッドは波打ち際までよると、明けようとする空をじっと眺めていた。
思えば、ここへ来て初めて落ち着いた時間を過ごしているような気がする。
「・・・・」
ジャレッドは小さく身震いする。日の昇らないビーチは少し肌寒かった。
「風邪引くぞ・・・」
そう言って、後ろから逞しい腕が身体を包んだ。そして、首筋にキスをされるとジャレッドは擽ったそうに身体を捩った。
「・・・起こしたか?」
「・・・起きたんだよ・・・」
わざと言葉を強調させたコリンの台詞に、二人が目を見合わせて笑う。
「悪かったな、いろいろと。本当はもっとゆっくりしたかったんだが。」
ジャレッドは身体を反転させて、コリンの首に自分の腕を回した。
上目遣いに笑みを浮かべる。その姿は小悪魔さながらといった感じだった。
不適に見える笑みに、コリンがいえ知れぬ恐れを感じとった。
「な、なんだよ。」
「別に。」
そう言って、ジャレッドはコリンにキスをした。
ますますもって怪訝さをましたコリンが珍しく、焦った様子でジャレッドを見つめていた。
その様子に、ジャレッドは小さく笑った。
たまにはお前も翻弄されてみろ。
いつも俺ばっかり、お前にいいようにされるのは癪だからな。
「お、おい、ジャレッド!」
何も物伝えぬまま、踵を翻すジャレッドを慌ててコリンが追う。
「・・・残り、数時間。お前は俺のために何をしてくれる?わざわざ何時間もかけて逢いに来たんだ。それに見合ったことは期待していいんだろう?」
悪戯に笑うジャレッドに、コリンの眼がギラリと光る。コリンの頭の中は、このどうしようもなく可愛らしいウサギちゃんをどう料理してやろうかでいっぱいだった。
トラが捕まえたウサギの前足は相変わらず冷たかった。
暫くその手は離れることはなく、コリンの熱によってジャレッドの手は暖かくなる。
少しだけ、柄ではないことをしたくなったのは、回りに人がいなかったからなのか。
いつもとは違う、心を擽る感触を楽しむ二人を、朝日が少しずつ包み込んでいった。
こうして、久しぶりの二人の休日は、ある意味、有意義な時間を送って幕を閉じる。
〜fin〜
呉羽様より相互リンクの記念にいただきました。思わぬじゃまが入ってもやっぱりラブラブの二人。素敵なお話しをありがとうございました。(2005、10、10 NIMA)
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